●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんかだれかに、心と気についての問答がありました。



サマーブルー


━わたし、今、サマーブルーなの。

━何それ?

━ブルーは気分を表す色で、ほら、マタニティーブルーとかブルーマンデーみたいな。

━な〜んだ、ユウーツってことね。

━そう、ってゆーか、ひとつひっかっかってることがあるの。心の整理がうまくできない。

━いつだって優柔不断なんだよ。あんたは。

━そうだけど…

とにかく、わたしの気持が今年の夏の天気のように荒っぽくて変わりやすい。実はこの間

せっかく大事な人に会って、心の中はピリピリと興奮しているのに気分がどんどん沈んで

いく。それでなんだか気まずい雰囲気になっちゃった。なぜだろう? 

━それは。その人と波長が合わなかったんだよ。心の底を表す「気」がうまく働かなかっ

たということだね。「心」と「気」は別物だから。

━そうなの? だって「気は心」っていうじゃない。同じようなもんじゃないの?

━そうじゃないんだって。「気」について研究した学者の本の中に引用されていたんだけ

ど、夏目漱石の『道草』の中に、

「心は沈んでいた。それと反対に彼の気は興奮していた」

といった文章があるそうなの。あんたと反対だね。つまりは気と心はイコールじゃないっ

てこと。

━そうなの? じゃあ、「気」と「心」ってどう違うの? 

━これもその学者の受け売りだけど、「心」というものは本来内に向かって閉ざされたも

のだけど、「気」は外に向かって一種の目に見えない触手のように動いているものなんだ

って。その触手は言い換えれば波長のようなもので、「心」は「気」によって外へ表現さ

れ、その「気」が相手の「気」をとらえて初めて相手と共鳴するっていうわけ。

━ふ〜ん。まず「気には気を」ってワケね。

━あんたが気がのらなかったならきっと相手もおんなじだったと思う。気は伝染するから。

ま、気を落とさずになんか気晴らしでもしたら?

━そうね。気晴らしに旅行でもしたいところだけど、わたしには夏休みがない。これも一

つのサマーブルーかも。

━そんなの自分でつくるしかないじゃないの。

♪幸せは歩いてこない だから歩いていくんだね 

 一日一歩 三日で三歩 

三歩進んで二歩さがる

ってね。


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