●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんに、ひょっとしたら新しい友だちができたのかも。



夜の訪問者


ガマガエルが我が家の庭に住んでいることはうすうす知っていた。

草むしりのとき、うずくまっていたりのそのそ歩いていたのを見たことがある。

くすんだ茶色にゴツゴツした皮膚で握りこぶしぐらいの大きさだ。

見かけると気持ち悪いので私はすぐ逃げだす。

その日の夜、私は夕飯に使う青じその葉を採ろうと玄関のドアを開けて驚いた。

ガマガエルが真正面に鎮座しているではないか。

ギョッとしてすぐドアを閉めた。

しばらく呼吸を整えてから、そうっとドアを再び開けると同じ姿勢でまだいるのである。

両手をハの字について、後ろ足を折りたたんだあの折り目正しいカエル座りでまっすぐこ

ちらを見ている。

まるで、こんばんは! と正式に我が家へ訪れたかのように。

こうなったら私も丁重に対峙しなければならない。

「いらっしゃいませ」

「蒸し暑いですなあ」

「ええ、それで何か御用ですか?」

「いえね、こういうじっとりした晩は私どもにとっては快適そのものなので、つい気が

大きくなって、誰かと話したくなりましてね」

「それは、それは…でも私は今夕飯の支度で忙しいもので…後にしていただけませんか」

「そうですか。それは残念。失礼いたしました」

このやりとりで彼はのそのそと草むらへ消えていった。

私は彼を見送りながら、ふとあのガマガエルは私に会いに来た誰かの化身ではないかと

思った。

真夏の夜のおとぎ話である。


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