●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、巷での見聞きを話にしましたシリ−ズ 8



シリーズ 男模様女模様

男の指輪


女の目の前を指輪が行き交っている。

隣のデスクに座る男性社員の指にはめられた結婚指輪。

電話を取るとき、キーボード操作のとき、書類の説明するとき、指が動くたびにキラキラ

光る。

お隣さんは確か結婚3年目。まだまだ新婚さん(?)。

結婚式のとき、永遠の愛を誓った証拠の品だもの、一度はめたらおいそれとはずせないも

のね。

はめられた結婚指輪は、まるで犬の首輪のようにボクは家庭に帰属しています、家庭を大

切にしています、愛する奥さんのものです、というメッセージを放っている。

女は(ふふ、甘いなあ)(なんて律儀でいじらしいんだろう)(こういう人の奥さんって、

浮気の心配もなく安心だろうな)なんて想像してしまう。

我ながらイヤラシイ。

でも、女性ならば大抵の人は結婚指輪をはめている男性からそのくらいの情報は汲み取っ

ているはずだ。さらに・・・

ファッション性のある女性の指輪と違って男性の指輪はそのくらい自己顕示性が強いもの。

でも嬉々としてはめていたそんな結婚指輪が、おじさんになるといつのまにか薬指から消

えているではないか。

何故だろう? 渡る世間ではいろいろ不都合がでてくるらしい。

ってことは、指輪をはめている男性は、はめていない男性よりも情報量が多いってこと? 

それが誠実な印象が信用につながることもあるけれど、逆に不利になることだってあるっ

てこと?

そう、忍者のように身許を明かさずに、いつも臨機応変に動くことも世渡りの術として必

要なんだって。

「男はみんなナルシスト」

(我ながらうまいことを言う)

世知辛い世の中、いつも自分をいかにうまく演出するか心を砕いて生きていかねばならな

い。

女は隣の席の新婚さんを横目で見ながら(きっとそのうち指輪外すからね、今はいつ外す

かタイミングを計っているのかも…)と楽しみにしている。


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