●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、なつかしい花と再会しました。



チューリップとわたし


♪咲いた 咲いた チューリップの花が

並んだ 並んだ 赤 白 黄色

どの花見てもきれいだな♪

誰でもが知っているチューリップの歌。

私の小学校新1年生のときの教室風景がまざまざと甦る。真新しいランドセルを背

負ってお帰りの時間に声を張り上げて歌ったものだ。歌い終わると

「先生、さようなら。みなさん、さようなら」

と唱和して下校となった。

純真で無垢、裏も表もなく、ただただ希望だけが体にみなぎっていたその頃。

歌がチューリップならお絵かきもチューリップ。

単純で明快、人生の始まりの時期にはぴったりな花。

だからチューリップのイメージは、ただただほんわかと温かく、幼くてどこか懐か

しい。


今年、春を感じたくてチューリップの鉢植えを買った。

赤、白、黄色。

朝に晩に眺めていると、なんとあの子供っぽかった印象が、ガラリと変わったでは

ないか。

単純明快から複雑陰影へ。

太陽に当たっているときと、陰ってきたときの微妙な花弁の色艶に違いがあって味

わい深く、また風に吹かれると、疲れたように緑の茎が傾き、まるで、重たげに頭

をかしげて嘆いている風情なのである。

そして、たいていの花は花弁が開いたときが盛りで美しいのに、チューリップは花

弁が地上と並行になるまで開くと何の花だかわからなくなるくらいだらしがない。

“コラコラ、しっかりしなさい”と声をかけたくなるほどしまりがなくなる。

チューリップの魅力はなんといっても蕾のときで、先端だけが小さく開いていると

きが一番美しいという変わった花なのである。

ずっと眺めていると、なんだか幼馴染に出会ったら自分と同じ年増になっていたよ

うな不思議な感覚になるのだった。


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