●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、便利さに負け、またちょっとした災難に。



再び歯医者の話


例の歯医者へまだ通っている。

例の歯医者とは、夫も通っていて、治療中やたらと痛い? 痛い? と聞く歯医者の事だ。

最近、私はよく眠れず体調悪いなあ、と思っていた矢先、下の歯茎が腫れて痛くなった。

歯肉炎かもしれないと思い、ゴシゴシ磨いたら血が出てしまった。

次の予約日に先生に訴えたら、

「傷ついてるわよ。もうこれ以上磨かないでね。口内炎になってます」

私は以前別の歯医者で定期的にメンテナンスを受けていたので

「最近歯周ポケットのメンテナンスを受けてないので、そこにばい菌が入ったのでは?」

というと、先生は気を悪くしたように

「あなた、ちょっとナーバスになっているんじゃない? 体調が悪いんだって? 木の芽

どきだからね。疲れると真っ先に粘膜にくるのよ。でもこの程度なら大丈夫。痛みという

のはね、比較の問題で、一つが解決すると、もう一つの副題だったのがにわかにクローズ

アップされて、今度はそれがメインの痛みとなって感じるのよ。次々と痛みを作っている

ようなもの。神経をもっと他のことに向けたら痛みなんて忘れます」

だって。精神論でいわれてもなあ…

痛いものは痛い。

「でも私は歯茎を引き締めようと磨いたんですけど…」

「ダメ! 気にし過ぎです。そのくらいの痛みでワーワー言うのはあなたは幸せな証拠。

人生には困難がたくさん待ち受けているのよ。考えることはたくさんあるので、そんなこ

とで悩むことはないのよ。あなた大丈夫?」

と今度は人生訓ときた。

大きなお世話だ! わたし、やっぱりこの先生とは相性が悪いみたい。

私がいろいろ口答えするので、

「あなた、ご主人とは正反対ね。ご主人は穏やかで何も文句をいわないわよ」

「ええ、夫とは性格の不一致なんです」

というと、そこで先生はハハハ、と笑う。

次の日、今度は夫の予約日であった。

私が出かける夫の背中に

「先生になんか言われるかもしれないわよ」

と声を掛けると、夫は

「天気晴朗なれど、波高し」

といっていそいそと出かけた。


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