●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんも一部お手伝い(?)、やせさせる商売の話その4。



シリーズ 肥満が不満 4


その頃はグルメという言葉が飛び交う飽食の時代であった。

こんな事件があった後も、やせたい女性が引きも切らず、新会員は着実に増えた。

それで会社は有名女性週刊誌の1ページに全面広告するまでとなる。

社長とその打ち合わせをしていたときだった。

社長はここまで成長した会社に感無量なのか、しみじみとこんな話を私にした。

「実はボクは若いとき美容師をしていたのよ。髪を切りパーマをかけセットすると

鏡の前の女性はみるみるきれいになっていくのね。そのとき女性は来たときとは別

人のように、姿勢までシャンとして自信に満ちて帰るのよ。嬉しかったねぇ。女性

は美しくなることで自信をもつんだね。大体、女性は化粧したり、着飾ったりと自

分を美しくみせるのは本能なんだよね。そのときボクは思ったんだ、女性を美しく

するのは、女性の好きなボクの使命、天職だとね」

へえ〜そうなんだ…

私はそのとき、社長のパンチパーマ、粋がっている口ひげ、おネエ言葉を交えたソ

フトな語り口、きめ細かなあの手この手の泥臭い痩身教室の経営方針、すべてが一

つにつながって合点がいったのだった。

社長は夢を追い続けているのだ。


かなり独善的で利己的な夢だけど…男の立場から、女性とは見られる性であること

を原始的に信じて…しかも美しい外観が女の幸せをもたらすという価値観を何の疑

いも持たないで。

それは確かに女性の一面ではあるけれど、すべてではないのだ。

私は少しばかり社長を見直す思いになったけど、やはり女性週刊誌にちょっと胡散

臭い“やせるイコールきれい”を前面にだすのはまずいと主張したのだった。

「信頼のプログラムでスリムにGO !」

こんなコピーであたりさわりのない広告となった。

やがて時代は変わる。

バブルがはじけ、女性の社会進出が進んでいく。

美しさの基準も幸せの基準もどんどん多様化していった。

共働きとなった女性は忙しくなり、この教室のように平日の昼間からたっぷり時間

とお金をかける人は少なくなっていく。

今思えば、この頃がこの痩身教室「アイデアル・スレンダークラブ」の頂点だった

のだろう。         (了)


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