●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんも一部お手伝い(?)、やせさせる商売の話その3。
シリーズ 肥満が不満 3
女性たちはトレーナーに自分の理想体重を数字で示されたり、やせればやせるほど美
しくなると吹き込まれ、次第に追い詰められていく。
ある日恐れていたことが現実となった。
二十歳前後の女性を連れた母親が、娘が拒食症になったとクラブに怒鳴り込んできた
のだ。
ちょうど、フロアではトレーナーの指導で、ある者はエアロビクスを行い、ある者は
マシンを使って筋トレをしていた。
母親の剣幕に驚いて、皆中断して一斉に事の成り行きを見つめる。
結局、若いトレーナーでは収めきれずに社長を呼ぶ羽目になった。
社長は悠然と現れ、周りをぐるりと見渡し、
「皆さんも聞いてください。当クラブは食事制限よりも、ご覧のように、こうして運
動に力を入れて太りにくい体質に変えるよう指導しています。つまり健康的にやせる
をモット−にしているのです。肥満は万病の元と考え、太らず健康に過ごすため食事
制限というより正しい栄養指導を行っているのです。そうですね、みなさん!」
社長は周りにいる会員を味方につけるようにもう一度見渡した。皆は沈黙のまま。
「でも現にウチの娘にやせればやせるほどきれいになるって吹き込まれたんですよ。
これはあきらかに過激なヤセ指導でしょ。それで娘は追い詰められて、食べては吐く
ようになってしまったんですからね!」と母親が言い募る。
「お気の毒ではありますが、お宅の娘さんの心理状態が異常であって、教室の指導と
は関係ありません。世の中のやせたい女性が数ある痩身法の中からこの教室を選んで
やってきたわけですから、教室としては、あらゆるノウハウを提供して結果を出すこ
とが仕事であり、使命なのです。従って、お宅の娘さんが拒食症になったのは個人の
問題でまったく会社とは関係ありません」
と社長は突っぱねる。さらにトレーナーに運動を続けるように促し、親子にはお引き
取りください、と言って、追い返してしまった。
げっそりやせてうなだれて帰る娘の姿が哀れだった。
とても後味が悪かった。
会員はトレーニングを続ける気力も薄れ、ひそひそとおしゃべりをする。
苦しいダイエットの末があんなになるなんて…
あれじゃ、ガリガリにやせて美しさとは程遠いわよね。
どうしよう、やせるのはほどほどでいいんじゃない?
ようやく社長の主張する「やせる+健康+美しさ=幸せ」の方程式が揺らぎ始めた。
(つづく)