●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんも一部お手伝い(?)、やせさせる商売の話その2。



シリーズ 肥満が不満 2


「アイデアル・スレンダー・クラブ」はお金がかかるクラブだけど、確実に痩せられ

るという評判でさまざまな女性が集まった。

会報のネタ作りにと会員の座談会を開き、アンケート調査などすると、さまざまな女

性の本音がさらけだされた。

“産後太りがひどくて、それがなかなか元に戻らないんです。夫から体がほっそりし

て格好いいから結婚したのにこれでは詐欺だといわれた” 

“私の家族は全員太っていて、私はチビデブっていうあだ名だった。友達からいじめ

られて何度悔しい思いをしたことか”

“太っているだけで、他人は鈍くさいってイメージ持つみたい。就職の面接からお見

合いまで私はずっと体型で損をしてきた”

“スタイルがよければどんな服も似合うし、似合っていると思えば自信につながる”

などすべて切実な声である。

その頃、『寂しい女は太る』というタイトルの本が出たときは、気取るんじゃないよ、

陽気な女だって太るんだという怒りの声が沸き上がったほどだ。

彼女たちは肥満であるがゆえに理不尽な扱いを受け、悶々と悩みコンプレックスを溜

め込んでいたのだ。

そのコンプレックスから抜け出したい、きれいになりたいという女心を、社長は巧み

に利用した。

例えば、減量目標を達成した人には仲間の前でファンファーレと共に、紙吹雪を散ら

して盛大な減量完了式を行い、本人には晴れがましい達成感を味わせ、他の会員には

“次は自分が”といったやる気を誘い競争心を煽った。

教室内では肥満という共通する悩みの連帯感で和気藹藹でありながら、水面下では競

争心と羨望と嫉妬が渦巻いているようだった。

私はあくまでも外部からの人間で、自分の役目はこの企業の広告媒体を担当する立場

であり、そして広告はサービス業なのだと割り切った。

それでいかにお客様の心をつかむことができるか、ということに心を砕いて、キャッ

チコピーを次々と考え、

「肥満が不満のあなたを満足させたい」

「やせて魅せる!」

「せっかく女という美しい性に生まれたのだから、磨きをかけよう」

「美しさは自分で手に入れる」

「あなたを理想のプロポーションにデザインします」

「行動するあなたにスリムの神がほほ笑む」

などと書き散らして、社長のお先棒を担いだのだった。   (つづく)


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