1/30のねこさん 文は田島薫
つたの中のねこさん
よく晴れたきのうの午後、家人と長い散歩に出かけ陽が傾く頃、左手が開けて住宅がなら
び右手は木々のあるなだらかな坂を下ったら、そこもきれいな住宅や集合アパートのなら
んだ場所で、中でも一番古そうな小さな家のへいはつたのような葉ですっかり覆われてて、
そこから、どんっ、って音がしたんで、見てみると、きじとらのねこさんが屋根からひさ
しにとび下りたとこだった。ねこさん、目をまるくして、よ、って手を上げる私を見なが
ら固まってる。気がつかずに行きすぎた家人がとなりの家の庭の寝てる犬をおしえたんで、
こっちはねこさんをおしえたら、どれどれ、って言うんでふたりで戻り、今度はふたりで、
庭木のすきまに、よ、って手を上げたんだけど、ねこさん、こっち見て固まったまま。
さーて、屋根の上の日なたぼっこも少し寒くなってきたから終わりにすっかな、とりあえ
ず、ここに、どんっ、ってとび下りて、さてその後下へ下りたらどっちへ行くことにすっ
かな、って木のすきま見たとこに、ちょ〜どぴったりだれかいてこっち見てやがるぞ、こ
んなこたはじめてだな、なんだなんだ、そんなとこ上がってちゃだめだ、つってんのかな、
いやいや、こんな知らないやつにそんなこと言われるすじあいはないぞ、お、手を上げて
やがるぞ、あやしーやつめ、次にどー出るのか、見張ってないといけないな、お、帰るの
か?いや、裏まわってこっち入ってくっかもしんないから、しばらくここでじっとしてた
方がいーな、ん?今度は他のだれか連れて戻って来たぞ、お、ふたりで手上げてやがる、
意味わかんねーし、やばそーだから、ぼくはしばらくここ動かない方がいーな。