シリーズ 街角感傷
代官山
降り立った代官山駅は狭いホームだった。
両サイドが迫っていてまるで谷底にいるようだ。見上げるコンクリートの壁には若者の街
らしくスプレーで落書きがされてある。どうやったらそこに落書きができるのかと首をひ
ねるような危うい場所のためか、それとも壁画として受け入れたのか、駅は消そうとしな
いようだ。
階段を上り中央改札口を出ると、古くて暗いホームから一転してあっと驚くような明るく
お洒落な町の雰囲気に包まれる。劇的な変化だ。かなりの高台で、狭い道が四方に伸び、
坂あり横丁ありのごちゃごちゃした街並みなのにこのリッチ感はなんなのだろう。
軒を並べるブティック、レストラン、カフェが今風に洗練されているせいか。洒落た服に
身を包んだ若者たちが行き交うせいか。
いつもハレの日のように生活感のない街、代官山。
ネットで調べた周辺地図では鉢山、猿楽町、恵比寿、暗闇坂、目切塚など意味ありげで魅
力的な地名が並ぶ古い街なのだ。
その昔、代官屋敷があって鬱蒼とした木が繁り、きっと地元の人がつくりあげた面白い逸
話が残っていそうな…なんて想像を巡らせていると、いきなり場違いな祭り囃子の音が聞
こえてくるではないか。さては幻聴か・・・
旧山手通りに沿って音に引き寄せられるように近づくとデンマーク大使館の立札のある横
丁に、確かにあの昔ながらの神輿と山車が止まっていてそこから聞こえてくるのだった。
関係者らしい人々が祭りの装束で7〜8人が取り囲んでいた。まるでタイムスリップした
ように、なんだかそこだけが祭りの雰囲気で、一般の歩行者もよそ者の若者が飛び入りす
ることはない。皆横目で通り抜けていく。まるでその一画だけが異質な空間となって浮い
てしまっている。
代官山は再開発を繰り返して都内随一のモダンで瀟洒な町と聞く。だが、果たしてこの町
にとって幸せなことだったのか。
とにかく代官山はなんとも秋祭りの似合わない街だった。 |