世間話シリーズ
諦めが肝心
これはある介護ヘルパーから聞いた話である。
彼女の勤める高齢者用のグループホームでは週に2回ぐらい、お年寄りを慰めるために
犬や猫など動物と触れ合う時間を組み入れることになった。
愛らしい動物の表情や姿やしぐさがお年寄りの心を穏やかにさせ、脳に刺激を与え活性
化させる効果があるそうだ。
かつてペットを飼っていたお年寄りも多く、昔を思い出したりして、このときばかりは
普段感情を失ったかのようなお年寄りが目を輝かせ、生き生きとした表情になるのだと
いう。
やがて、回を重ねるごとにそれぞれのお気に入りが出来た。が、なんといっても取り囲
むお年寄りは11人、ペットは2〜3匹なので、奪い合いである。
「あんたばかり触っていてずるい」
「だって、この子が私になついてんだもん、しょうがないじゃない」
なんていう喧嘩も始まるほど。
ある猫好きのおばあさんは
「自分の猫が欲しい」と言い出したそうだ。マイペットである。
「ねえ、私の部屋で飼うからいいでしょう」と駄々をこね始めた。こうなるともう子供で
ある。もちろんそんなことが許されるはずもない。
人間、歳をとると頑固にもなるし、わがままにもなる。
「あたしゃ、さびしいんだよ」と泣き出しわめき、手に負えない。
そのとき、隣のおばあさんがぴしゃりとこういったそうだ。
「我慢しなさいよ。今までだっていっぱい我慢して生きて来たんだろ。これからはますま
すできないことが多くなるんだから。もう諦めるしかないんだよ。年をとるってことはそ
ういうもんだ。人間諦めが肝心」
なかなか気骨のあるお年寄りである。
そのヘルパーは言っていた。みんなお年寄りは一つ一つ何かを諦めながら歯を食いしばっ
て生きているんです、と。
きっとそれは誰でもが通る道なのだろう。 |