●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが見た世間の人々の諸事情(?)シリーズの7。



世間話シリーズ

気遣い


夜9時過ぎて、お風呂にでも入ろうかと思ったら電話が鳴った。

もう何年も会っていないYさんからだった。

Yさんとは10数年前、ゴルフ練習場で出会った近所の友人だったのだが、すぐ引っ越

してしまい、その後数回しかあっていない。詩人で年に数回発行される『紙碑』という

同人誌だけは必ず送ってくれていた。

つい最近も送ってくれたのでハガキに感想めいたことを書いてお礼状を出したのだが、

それが悲観的な印象だったらしく、何か病気でもしているのかと心配で電話をくれたの

だという。

短い文面なのに私の変化を敏感に感じて、しかもためらわずすぐ電話をかけて安否を確

かめ、最後に今度気晴らしに会いましょうね、といってくれた。私はすっかり感激して

しまった。

最近の私は世間がどんどん狭くなっていくように感じている。

私がガン患者を抱えているというだけで、大変だね、介護に専念しなさいね、という言

葉のもとに疎遠になっていく友人がいるのだ。どうやらそれが思いやりというもので、

また病人は病人らしく治療に専念し、家族は悔いのないように一生懸命に看病するべき

というのが世間の美談ということらしい。

でも、なんだかそんな特別扱いがなんとも寂しい。がんにもいろいろあって対応は千差

万別だ。病気は大きなダメージだけどそれがすべてではない。なんとか病気とつきあい

ながらもその人らしい生活を続けていきたい。

なんだか話が愚痴っぽくなってしまった。

要するにYさんの電話がこんなに嬉しかったのは、疎遠だったYさんのなかに私という人

間が存在していることを知ったこと。Yさんの気遣いの中に私と同じような感性を認め

たからだった。

どうやら人はいつまでも他者を通して自分の存在確認をしながら生きていくものらしい。


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