●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、はたまた今度は柑橘果物を人生の手本にするようです。
柚子
人は見かけによらないという言葉をよく聞くが、人だけではない、野菜や果物にもいえる。
例えば、柚子。
あの武骨な形からは考えられないような繊細で高貴な香りを放つ。
鍋料理に、煮物に、おひたしに、漬物に、どんな料理にもちょっと添えるだけで高級料亭
の味となる。只者ではないのだ。
子供の頃、母の実家から毎年柚子が送られ母が盛んに使っていたので、冬の料理の最後の
仕上げとして欠かせない存在だった。
つまり私は小さい頃から柚子とはあれこれ口を出す親戚のおばさんみたいな親密な関係だ
ったのだ。
それが、長じて忙しさにかまけていんちき料理、手抜き料理が板についてからはすっかり
遠のいていた。
そして去年の暮れ、庭に柚子の木のあるという太極拳仲間からなんと柚子を8個も頂いた。
大喜びでそのときは3個を柚子湯に使い、残り5個をモチーフにして絵を描き、そのあと
すべて皮をむき、その皮だけを細く細く切って冷凍。中実の果肉は筋もすべて一緒にして
砂糖漬けにした。砂糖漬けは最後にはすべて溶けてとろとろになるのでお湯で割って柚子
茶に、細切りの皮は小出しにして料理にあしらい香りを楽しむ。少しでも長く柚子を楽し
もうというみみっちい作戦だ。
お蔭で今年の冬いっぱい柚子を楽しんだ。
柚子の香りで台所をいっぱいにして作業をしたあのとき、私は柚子と一層親密な関係にな
ったような気がした。
これから人とのつきあいでも、普段は疎遠でも機会があったらそのときは全力で向き合う、
そんな関係を大事にしたいと思う。