●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、花に教訓を感じたようです。
火の鳥
朝から冷たい雨。
天気予報は、夜には雪となり大雪に注意と報じている。
そんな陰鬱な天気のなかで、我が家の玄関ポーチに置いたシャコバサボテンが真っ
赤な花をつけている。
冬枯れのこの季節、鉢いっぱいに燃えるような花を咲かせるシャコバサボテンは寒
さに挑戦するかのように命の炎を噴いている。
この鉢は亡き母から丹精したものをもらい大きくなったもの。だから相当の年数が
たっている。幹も太くなっていて貫禄十分。ちょっとやそっとではめげない。
鉢をくれるとき母が言っていた。シャコバサボテンが華やかな花をつけるには秘訣
があるのだと。
その秘訣とは『闇』。
冬至に向かって日一日と夜が長くなっていく頃から、シャコバサボテンは長い闇を
じっと感じとって蕾をつけ開花の準備をするというのだ。だから、早々に部屋にな
んか入れて、人工の光なんか充ててはいけないんだよ、と。
なんだかとてもドラマチックで、そしていじらしい
闇を通り抜けたシャコバサボテンは、クリスマス頃から次々とほっそりとしたピン
クの鳥のくちばしのような蕾をつける。やがて蕾が開くにしたがってひらひらと広
げた鳥の羽のような華やかな花びらとなり、花びらの中から絹のような長い雄しべ
をまるで鶴の首のように突き出すのだ。
その姿は今まさに飛び立とうとする赤い鶴のよう。
赤い鶴は冷たい北風の中をひらひらと舞い、ガラス戸を通り抜けて私の心にぽっと
明るい灯りをともす。
黒々とした真冬の闇のエネルギーを蓄え昇華させ“火の鳥”となった花は翼を広げ
て私を希望の世界へと導いてくれる。