●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの、地元お気に入り場所、のひとつのようです。



シリーズ 街角感傷

みなとみらい


絵画教室の授業を終えて外に出ると、来るときどんより曇っていた空はすっかり晴れわ

たっていた。

一仕事を終えてホッとする解放感か、なんだかまっすぐ帰るのがもったいない。せっか

くの桜木町だもの、ちょっと散歩をして帰ろうと思った。

今は廃駅となった東急線の跡地を見上げながら国道16号線を渡り、高架を通るJR根岸

線の下の桜木町駅横を抜けると急に視界が開ける。

左手にランドマークタワーがそびえ、クイーンズスクエアーの3つのビルが程良い配置

でリズミカルに建って海に延びている。正面には帆をおろした帆船・日本丸が、そして

バックにはコスモワールドの観覧車が空の一角を占める。

みなとみらいへ来ると非日常感に満たされ、なぜかせいせいした気分になる。

この地区はもともと昔の三菱ドックの跡地である。

昭和58年に移転と同時に“みなとみらい21”の一大プロジェクトが実行され、この

付近をホテル、商業・娯楽施設、コンサートホール、公園などを総合的に整備した。

船、港、運河、倉庫など港町としてのおぜん立てはすべて揃っていて、ここに身を置く

と異国にいるような感覚に浸る絶好の場所だ。

今日は枕木を埋めた汽車道を海の方に向かってぽくぽくと歩いていく。

高い建物はないので、視界いっぱいに広がる空と微かな海の匂いを運ぶ風が心地よい。

お目当ては“ナビオス横浜”の3階のラウンジ。大きく窓を取った席に陣取ってコーヒ

ーを飲みながら遠景の海を眺める。そして近景には赤レンガパークだ。

そろそろ陽が傾いてきた。斜めになった光は立ち並ぶ赤煉瓦倉庫を舞台照明さながらに

深い影をつくり奥行きを演出する。

夕暮れだ。柔らかになった光は私の心を解きほぐす。

“絵は写し取るのではない、己の主張だ”どうしたら自分が出せるか、なんて突っ張っ

ていた昼間の感情も緩んで、そこにはあるがままを受け入れている自分がいた。


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