●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、池袋に親しみを感じてるようです。



シリーズ 街角感傷

池袋


池袋は子供時代に住んでいた西巣鴨から近いのでとても馴染んでいる。

子供時代には映画を観たり買い物に行ったり食事に行ったりと普段と違うちょっと

お出かけの場所だったし、最近は小学校の友人たちとの待ち合わせ場所でもある。

池袋は西武コンツェルンと東武コンツェルンがしのぎを削る一大歓楽街だ。

西口に東武デパートがあり東口に西武デパートがあるのが紛らわしく地方から来る

人との待ち合わせ場所には気を付けたい。

歴史から見ると、戦後闇市のあった西口が裏のイメージがあったけれど、今は芸術

劇場があり、メトロポリタンホテルがあり、立教大学が控えているので東口よりも

むしろ落ち着いている。

そこへいくと東口は大型電気店から娯楽施設がひしめきサンシャインがあり、若者

が喜びそうな店がごった煮状態で、余程器用に歩かないと人とぶつかるほどである。

いつ行っても沸騰状態の街なのだ。

以前、私は食べ物屋の女将の一代記を『池袋の女』という題で小説を書こうと思っ

ているなんてことを友人に漏らしたところ、『江戸の化け物』という本に同じタイ

トルの章があるよ、教えられた。

早速コピーを送ってもらい読むと江戸の怪談話の中でも『池袋の女』は怖さで抜き

んでているという。

それによると、池袋の女を女中などに使うと、きっと何か異変が起こるのだそうだ。

その異変とは、例えば自然に襖が開いたり障子の紙が破れたり、行灯が天井に吸い

付いたり、そこらにある物が踊ったり、といろいろの不思議現象が起こるという。

それも女が無事におとなしく勤めているぶんにはなんの問題がないのに、もし男と

関係でもしようものなら、たちまち怪異現象が頻繁に起こるのだ。

今日の池袋の人が聞いたら怒って名誉棄損だと猛烈に抗議することだろう。

とにかく江戸時代の池袋といえば、はずれもはずれ、狐や狸が出没していたまった

くの田舎である。

その頃の怪談話の犯人といえば狐や狸と相場がきまっていたので、池袋が狐狸の巣

窟のようにみられていたのかもしれない。

そんな他愛のない話を頭に浮かべて現代の池袋を歩けば、すれ違う人の顔が狐狸に

みえて楽しくなること請け合いだ。


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