●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが病気の夫の心情を想像したシリーズの7。



シリーズ あるがん患者のたわごと

自分勝手にいきたい


長生きも芸のうち、という言葉がある。長生きできるのもその人の才覚や創意工夫

があってこそ、というわけだ。

そんなものかねえ、と思う。

わたしのような歳になれば、長く生きられればそれでよしというわけではなく、好

きなように生きなければ意味がない。

最近のCT検査の結果、ガンの転移が見られなかったということで経過観察に入っ

て落ち着いたとたん、周りからああせい、こうせいという雑音がつぶてのように降

ってくる。

足が弱るからなるべく歩きなさい。

寝たきりにならないようにね。

ほら、動かないと筋肉が衰えますよ。

筋肉が衰えると血の巡りが悪くなるからね。

血の巡りが悪くなると、体の諸器官も衰えてきます。

脳の働きがにぶくなると、ほらボケてしまうんですよ。

(ハイ、ハイ、すべてわかっています。わたしは決してなまけているわけではあり

ません)

このごろ、長生きしてどんな良いことがあるのだろうかと思う。

目を外に向ければ、国際テロが横行し、反目し合う国々の情勢は一触即発のような

状態だし経済格差はひどくなる一方だし、そして目を内に向ければ、憲法改正だの

議員汚職だの廃棄食品の横流しだの違法バス横行だのと、目を覆いたくなることば

かりである。明るい未来は見えないのだ。

自分の身のことを考えても、前立腺がんはともかくとしても膀胱がんの再発率はか

なり高い。それに多くの持病を抱える満身創痍の体である。いつ何が起こるかわか

らず、また入院ということになれば、せっかく運動をしてもたちまちベッド生活に

陥り、体力は元の木阿弥だ。

せっかくの嵐の前の静けさといった穏やかな時間を痛いのつらいのを我慢して頑張

るのはやめようと思う。

他人に迷惑をかけずに自分で身の回りのことができればよし、あとは好きなように

気ままに過ごしていたい。これが本音。

(このシリーズはこの回でおわりです)


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