『サラバ!』を読んで
西加奈子著の『サラバ!』を読んだ。
上・下にわかれたかなりの長編なのだが、ずっとテンションが高いまま読み切った。
「僕はこの世界に、左足から登場した」という魅力的な書き出しで始まり、「僕は左足
を踏み出す」という計算された言葉で終わる。
もう、それだけで十分作者の非凡さを感じたのだけれど、読み進んでいると言葉がひと
つ、ひとつ心に響いてくるのだ。
主人公は外国暮らしを経験、とびぬけてかっこいいイケメン、猟奇的な姉、新興宗教、
などまったく私には縁のない設定なのに、登場する人物が事を受け止め、感じ、行動す
るときの心の動きは「こういうことってある、ある」と共感の連続で、まるで自分の心
を映し出しているような気分だった。
普段自分がもやもやと漠然と感じていたことを、はっきりと適切な表現で解き明かして
くれる快感のようなものだ。
物語は、ひとりの男の子が中年になるまでの紆余曲折を描いたものだが、気障な言葉を
使えば、自分の信じるものを探す心の旅路、といっていいかもしれない。
最近、心が壊れていく若者も多い。
それは、成熟した社会特有の洗練された行動や、規格からはみだしてはならないという
強迫観念ゆえにもたらされるのかもしれない。
高学歴、見栄え、マイノリティーは負い目、こんな枠にとらわれた価値観は小さいころ
から家庭や学校で育てられていく。
何が大切かを自分で見極めること、異端を否定してはならない、というのは、
この物語のメッセージであろう。
結局、奔放で自己中心的がゆえに孤独な姉と自分を律し常識的で皆から愛された弟が大
人になって行きつく幸せの形は逆転。また両親においても“幸せになる!”といってい
た妻は、結果的不幸になり、“幸せにはなるまい”といっていた夫が幸せを得るという
逆転。
なかなか示唆に富んでいる。
“しあわせは自分で決める”この本を読んで一層その感を深くした。 |