●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、意外性体験をしたようです。



石蕗


石蕗の 日陰に寒し 猫の鼻

これは酒井抱一の句である。

石蕗というと、この句のように木の下や家の裏庭など日陰でひっそりと咲いているイ

メージがある。

艶やかで濃い緑色の丸い形の葉、すっくとのびた花茎、鮮やかな黄色い花がパッチリ

と開いているさまは、構図も取りやすく絵心をそそられるのであろう、さかんに日本

画にも描かれる。

が、どちらかというと通人好みの花といえよう。

私は通人でもないし、子供の頃便所の近くでよく見かけたので、ダサい花だと思って

いた。

ところがあるとき、ある公園で石蕗が群生しているのを見た。しかも青空をバックに

太陽の日差しいっぱい浴びてわさわさと。

私はなぜか虚をつかれた。

えっ、これが石蕗?

まったく暗いイメージはない。

よく花といえば、可憐とか優美とかゴージャスとかいった形容詞がつくが、まったく

異なっていた。たくましくあっけらかんと私は逃げも隠れもしません、といった開き

直った咲き方だった。

それはなかなか魅力的だった。

何事も環境が変われば印象が変わるのである。

人間だって居る環境で生き方も人間性も変わるのかもしれない。そういえば、あるカ

トリックの尼僧が『置かれた場所で咲きなさい』といったタイトルの本をだしたっけ。


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