●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん流風呂作法。



冬の愉しみ


冬はなんといってもお風呂。

一日を終えて、寝る前に冷えた体を温かいお湯に沈める時の安堵感がたまらない。

我が家のお風呂は北向きで湿気を防ごうと大きく窓をとっている。従ってガラス窓の向

こうは外。すこぶる寒い。

ときどき泊まりにくるマンション暮らしの娘は、

「まるで、露天風呂に入っているみたい」などという。

「そんなことを言ったって、あなたは小さい時から文句も云わずにずっとこのお風呂に

入っていたのよ」と私は言い返す。

「なんてったってマンションはあったかいのよね」

と快適さに慣れた娘はまだぶつぶつ言うのだ。

そんな風呂場環境のせいなのか、私にはお風呂に入るとき奇妙なこだわりがある。

始めごくぬるい湯に入り、じっと座って追い炊きにしてじわじわと温度を上げる。全身

でお湯の温かくなるのを感じながら適温になるのを楽しみに待つのである。それは必ず

温かくなると約束された快適さを味わうことに尽きる。

そのときの気持ちの動きを実況すると、

(始めはつらいけどこのぬるさは永久ではないわ。ほらほら、だんだんあったまってく

る…じんわり、じんわり体もほぐれていくよう…そのうち極楽のような心地よさは必ず

やってくるのよ。体も頭もその期待感でいっぱい。少しずつ少しずつ体が温度になじん

でいくのがいい…最後には…ほーらね、快適温度になったじゃない。極楽…極楽…)と、

ま、こんな風なのだ。

結局、設定温度の43度くらいの熱めの湯加減となるのだが、私はいきなり熱いお湯に

入ったときのあの皮膚に滲みるような感覚が嫌なのである。

大袈裟にいえば、

これって、気の小さい私が人生の逆境にあるときに耐えるためのシミュレーションをや

っているのかも・・・


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