●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
松子さんの話題はワールドワイドだったけど…。



真夏の夜の話


久しぶりにアメリカ帰りの松子さんが我が家にやってきた。

日本に定住して約半年、だいぶ慣れたようだがマイペースは変わらない。

ビール好きの松子さん、冬は温めた(!)癇ビールを飲んでいたが、この時期はもちろん、

よく冷やした缶ビールなっていた。

話が弾んで、アメリカではオバマ大統領は最近人気がなく、華々しいデビューから一転し

て史上最低の大統領っていわれているという話からイスラエル・パレスチナ紛争やらの話

に及んだとき、

「ユダヤ人に対する誤解と偏見については、外国で暮らして見なければわからないわね」

と、興味深い話をしてくれた。

「どこでもユダヤ人ってすごく嫌われているのよ。例えば、レストランや喫茶店でユダヤ

人が入ってくると、周りの席がさっと空いてしまうくらい」

「へえ〜、その人がユダヤ人ってどうしてわかるの?」

「日本人ならアジア人を見て大体韓国系か、中国系か、東南アジア系かわかるでしょ。そ

れと同じよ。ユダヤ人って大体鼻が高くて、鷲のクチバシのようになってるの。ほら、以

前、キッシンジャー国務長官っていたじゃない。なかなかやり手だったけどユダヤ人だっ

たので、とうとう大統領にはなれなかったのよね」

ところで、正確にいえばユダヤ人という人種はいない。ユダヤ教を信じている人たちのこ

とを指す。離散と迫害の歴史で国土がなく、それゆえ生きていく術として財産や知識を重

んじ、共有しあってその有能さは定評がある。

「そのぶん、隣人よりもお金を重要視するのよ。“ベニスの商人”のシャイロックがそう

でしょ。冷酷でえげつない、というのがもっぱらの評価。ま、私たち日本人には理解でき

ないことだわね」

現在、ユダヤ人が乗っ取ったイスラエルは、パレスチナ・ガザ地区を攻撃して、多くの民

間人を殺し、世界の非難を浴びている。

やっぱり、ユダヤ人は嫌われ者なのだろうか…

日本では人種差別や宗教差別はそれほど顕著ではないけれど…

話は広がって、今ニュースとなっているアフリカのエボラ熱やら、ロシアとウクライナ問

題などに及び、結局世界にはなんと悲惨な話が多いことかとため息交じりとなった。

日本だけはまだ平和と思いきや、集団的自衛権の閣議決定で平和憲法も危ういし、もっと

現実には広島の安佐地区の土砂崩れで多くの方が亡くなる自然災害が起きているのである。

真夏の夜に、戦争と自然災害のゾーッとする話が続いてしまい、松子さんもなんとなく冬

の生温かい癇ビールのやさしさが懐かしくなったようだった。


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