●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、ふと、料理の神髄を悟りました。
夏野菜
今日の夕食は何にしよう・・・
当然、この猛暑だもの、トロトロ火を使う煮炊きは敬遠だ。チャチャチャと済ませたい。
冷蔵庫の野菜室には色とりどりの夏野菜がある。トマト、ピーマン、なす、きゅうり、
かぼちゃ、・・・
トマトはくし形に切って塩をふり。茄子とピーマンは炒めて味噌で味つけシギ焼きに。
きゅうりは塩でもんでわかめとかまぼこを加え三杯酢に。それに魚でも焼けばいい。
と、たちまち、その日の献立が決まった。夏野菜はほとんど生でOK.だから簡単、楽勝
だとすっかり気を抜いて呑気に構える。
ところがだ! 夏野菜を甘くみてはいけないのである。
それに気が付いたのは料理にインチキや手抜きが板についた頃だった。
例えばきゅうりの塩もみ加減、枝豆の茹で加減、焼き茄子の焼き加減、この加減がとて
も難しいのだ。
きゅうりの塩もみは輪切りの薄さや塩の量やしんなり度が歯触りに関係するし、枝豆は
固すぎても柔らかすぎてもいけない。焼きなすに至っては焼いて皮をむいたときのジュ
ーシーさが命。
これらは料理と呼べないようなシンプルさだけに、素材の味を引き出さなければおいし
くないので決して侮れないのだ。
私は考えた。夏野菜とは、すべてを知り尽くそうなんて思わずに適度な距離感をもって
付き合おう。相手の良いところに助けられて、味わって、付き合うことの至福を楽しも
う、と。
だが、もし、違和感を生じるようになったら・・・
それはお互いの関係が変化するときなのだろう。
そのことを私は夏野菜から教わった。