●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、その時コンビニを新鮮に感じたようです。



コンビニ


主婦というものは一人暮らしになると限りなく料理の手抜きをするらしい。

日頃役割としてこなしていたものが、その役割を期待して食べてくれる相手がいなくな

ると、すっかりやる気を失ってしまうのだ。

夫が入院中、比較的料理好きの私も台所に立つ気になれなかった。一度作った煮物を3

回も食べ、サラダはトマトとレタス、ハムをのせるだけとか。

あるとき、病院からの見舞い帰りが夜になった。

秋の夕暮はつるべ落とし。最寄りの駅を降りると昼間の暖気はすっかり消えて北風が吹

き空気が急速に冷えていた。

雨戸も閉まっていない、真っ暗な家が頭に浮かぶ。

明かりをつけて部屋を暖めて料理を作る、そんな日常が今は吹っ飛んでいる。

急ぐ必要もない。

いつもは素通りするコンビニの明かりが温かく見えた。

私は吸い寄せられるように入った。

おでんを煮ている匂いが立ち込めている。隅々まで光がゆきわたった店の中は多彩な弁

当やサンドイッチ、飲み物、菓子の陳列棚があり、日用品があり、雑誌や漫画を置いて

いるコーナーでは学生やサラリーマンが立ち読みしている。

コンビニはさしずめ街の中に流れだした茶の間なのだろう。

誰でもいつでも入ることのできるその茶の間は、お互いまったく無関心で、思い思いに

くつろいでいて公平である。

私はサンドイッチとインスタントスープとプリンを買ってレジに持っていくと、若い店

員が顔も見ずに早口で何かを言った。

「えっ?」

と聞き返すと、

「Tポイントカードはお持ちでしょうか?」

と品物を袋に入れながら言った。

「いいえ、持ってませんけど」

という私の言葉を全部聞かないうちに手際よく釣銭をよこした。

アルバイトの店員は客にも無関心だった。

それでも、コンビニは昼間のように煌々と明かりを絶やさず、孤独な茶の間の役割を果

たしている。


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