おとぎ話シリーズ
貧乏神
貧乏神はどこにでも浮遊していて、いつだってとりつく所を虎視眈々とねらっています。
3月11日、大地震と同時に日本にとりついたのでした。
日本に隙があったのです。
そのとき、日本は閉塞感に包まれていました。
すさまじい勢いで繁栄と進化を続け、豊かさを享受しそれをあたりまえとなってしまった日
本は、少しの歪みができると国民は不平不満がつのらせ、政治は信頼を失い、経済は格差が
生じ、人の心は荒廃していたのです。
そこへこの大震災勃発。貧乏神はすかさず日本にとりついたのでした。
貧乏神にとって居心地がいいはずです。だって、20万人以上の被災者の財産がほとんど失
われてしまったのですから・・・
そして、追い打ちをかけるように原発事故による放射能拡散。
その被害は測り知れません。
マスメディアが被災地の惨状のなかで、健気に立ち上がろうとする人々の姿を報じると、貧
乏神はせせら笑ってつぶやきました。
「よし、日本人がどんなにこれから貧乏になるか数字で現実を知らせてやろう」
そして翌日の新聞に“この震災から復興するための費用25兆円”の見出しが躍ったのです。
ああ、先立つものはお金。25兆円もの金、借金政府がどのように捻出するのか、増税なの
か、日本人は震えることだろう、と貧乏神は腹をゆすって高笑いをしたのでした。
ところが、3月11日を機に日本人の心根が変わりました。いえ、変わったというよりは非
常事態にこそ団結力を発揮する国民性がめざめたといっていいのかもしれません。
誰もが悲惨さや不安を共有することで、日本人本来の協調性や順応性、やさしさや愛や勇気
など取り戻したのでした。引きこもりや孤絶、無縁といった言葉はいまや過去のものとなり、
人々は血縁地縁を超えて連帯し始めました。困難を乗り越えて遠からず復興するでしょう。
長居を決め込んだ貧乏神にとってこれだけは大いなる誤算なのでした。 |