会話シリーズ
続・無常観
察しのよいK氏は華やかなダンスホールのミラーボールの下で無常観を語ることに違和
感があることにすぐ気がついた。
気分が高揚し、着飾った女性たちはそんな雰囲気ではない。今を楽しく笑って生を謳歌
したいのだ。それならば実用的な若々しさの秘訣を語った方が喜ばれると判断し、話題
を変えた。
「とにかく体を大事に使い、長生きするためには食べものに気をつけ、できたら粗食が
いいですな。運動をすること、ストレスを溜めないこと、趣味を持つこと、などを日頃
心がけることですよ。そこへいくとやっぱり健康法としてはダンスが一番ですな。はは
は」と笑ってみせた。
ところが、一人の小太りの女性が、
「やだ〜、おいしいものも食べずに、長生きだけを考えて、ダンスまで健康法の一つだ
なんて考えて踊るのは嫌ですわ」
と顔をしかめた。また、もう一人化粧の濃い女性は
「そうよ、私、そんなに長生きなんかしたくないわ。せいぜい女の平均寿命までぐらい
かしら。いえ、ダンスが踊れる年齢まででいいわ。あまり皺くちゃおばあさんになって
老醜はさらしたくありませんものね」
というのであった。
あー、なんと身勝手な! K氏は嘆いた。
「皆さん、勘違いしてはいけません。人間の命は自分で決めるものではなく、与えられ
た命をまっとうすることなのです。それは義務といってもいい。だって、今、あなた方
がこうして生きているのは奇跡に近いのですよ。親からもらった命、たくさんのリスク
をくぐりぬけて選ばれた命、あなた方は生きているのはではなく生かされているのです
よ。そこを考えてあなたの命をもっと大切に考えてください」
一度死の淵をさまよったK氏の言葉はどうしても重くなる。頭上のミラーボールの刹那
的な輝きと噛み合わずに堂々巡りをするばかり・・・ |