シリーズ 生き物をダシにして
おーい
あるときのこと。
夫が忘れ物をして出かけしまい、私はすぐ気がついて後を追いかけた。初めての角を曲
がったところで、夫の後姿が見えた。
なんて声をかけよう…「あなたー」ではサザエさんになっちゃうし…名前を呼ぶのも照
れくさいし…「ちょっと〜」では弱いし…「もしもし」も変だし…
結局私は黙って猛烈にダッシュし、まるで運動会のリレーのバトンタッチみたいに忘れ
物を渡したのだった。
そして最近、地区センターでのこと。
3歳位の男の子が顔を真っ赤にして駄々をこねて泣いていた。お母さんはなだめたり、
すかしたりオロオロ。そのとき、地区センターの館長さんが声をかけた。
「おーい、ボクはなんで泣いているのかな?」
小さな子に「おーい」とはなんと気が利いている言葉だろう。おーいと呼ばれたら、男
の子は思わず泣くのをやめて振り向くだろう。きっと対等に扱われたような、くすぐっ
たいような。
そのとき、気がついた。「おーい」に当たる女言葉はないのだと。でも「おーい」と私
もいってみたい。
そういえば山村暮鳥が詩に「おーい雲よ」がある。
おーい山よ
おーい鳥よ
おーい虫よ
いくらでも呼びかけよう。そうすればいつもは聞くことのできない生き物の返事が聞こ
えるかもしれない。
そして、「おーい友よ」と普段疎遠の人にも呼びかけてみようか。
もし私が迷っていたり、ぼんやりしていたり、哀しかったり、寂しかったりしたとき、
「おーい」と誰かに呼ばれたら嬉しいのだから。 |