聞き書き ニューヨーカーの見たニッポン
自分のことは自分で
成田空港に着いたのは4時半だった。
税関を通り荷物を受け取って、外へ出ると、すでにあたりは暗く冷たい雨が降っている。
彼女はニューヨークから13時間のフライトでかなり疲れていた。
成田エキスプレスに乗るつもりであったが、ついお手軽な空港の目の前から出ているYCAT
のバスの方に乗ってしまった。
これが失敗だった。
眠るつもりだったのが、混んでいて隣の席に大男が座り窮屈このうえない。バスは途中から
雨渋滞と夕方ラッシュにはまり、ノロノロ運転。なんと東京へ2時間で着く予定が3時間か
かってしまった。
五反田のホテルへ行くべく東京で降りたものの、雨でタクシーはつかまらないし、駅への方
向がわからない。
人に聞いてようやく東京駅に辿りつき、切符を買い、改札口に入ったがエレベーターが見つ
からない。
彼女は年齢的にはすでに老人である。よく一人で長旅をしてこられたと感心するほどなのだ。
今回は2週間日本に滞在する予定なので、結構荷物も大きい。階段を目の前にため息をつき
ながら一歩踏み出した。そのとき、中東系らしい屈強な若者が、
「荷物持ちましょうか」
と声をかけてきた。
(おお、地獄に仏。渡る世間に鬼はなし)
と思ったのは話を聞いている私の方で、なんと彼女は断ったのである。
え〜なぜ? と尋ねると、
預ければ、この若者がそのまま荷物を持ち逃げする可能性だってあるではないか、というの
が彼女の言い分であった。
自分のことは自分でする、人をむやみに信用しない、これが彼女の長い外国暮らしで学んだ
ことだったのだ |