独白シリーズ
群集心理
冷たかった…臭かった…
それも24年も沈んでいたのだ。もうこのままドブ川の底で朽ち果てるのかと思った。
それが偶然にも、クレーンで引き上げられたのだ。
助かった…
作業員が「なんや?」「死体やないか?」と気味悪そうにいう。と、誰かが「カーネ
ルおじさんや!」と叫んだ。
そう、わしは1985年に阪神タイガースがリーグ優勝したとき、興奮したファンに
よって道頓堀川へ投げ込まれたケンタッキー・フライドチキンのカーネル・サンダー
ス人形である。
あのときのことは思い出しても身震いする。六甲おろしの大合唱のなかで呑んだり、
騒いだり、ついに裸になって川に飛び込む者もいた。そして、わしが活躍したバース
選手に似ているからと胴上げされ、そのまま戎橋からドボンと…
人間は群集となってひとつことに興奮すると何をしでかすかわかったものではない。
その場のムードでなにか強いものに付和雷同してしまい、どんどん過激な行動にでる
ことがあるのだ。目的の自覚もなく日ごろのうっぷん晴らしという衝動的な要素も加
わるからたまらない。
戦争、革命、反乱、暴動などは一部の扇動者が巧みに群集心理を利用するからあぶな
い、あぶない。
なんだかいきなり大きい話になってしまったが、今後のわしの身の処置はどうなるの
か心配だ。ケンタッキー社に戻されるという話や阪神球団のシンボルにするという話、
カーネル神社を作って祀るという話まであるとか。
それにしても大阪という街は、グリコの看板やくいだおれ人形とかびりけんさんなど
ダイナミックなシンボルが好きやなあ。きっと商業の街、笑いの街、思いをかたちに
しなきゃあかん街やからかなあ。なんや急に大阪弁になってしもうた。 |