シリーズ リポーター奮闘記
芝居狂い
「乞食と役者は一度やったらやめられないってね。あたしゃ、根っからの芝居キチでね」
ケケケと笑う。
丸顔で太い眉が八の字に下がり笑うと目が細くなり、やさしさが滲み出る。語り口に気負
いがなくどこかとぼけた持ち味が人を惹きつける。アマチュア劇団かに座を主宰するT氏
のインタビューでの印象。
横浜は近代演劇の発祥の地でアマチュア劇団の組織化を最初にした所である。横浜アマチ
ュア演劇連盟に加盟している劇団だけでも、かに座、葡萄座、麦の会、横浜小劇場、蒼生
樹などがある。
T氏のすごいところは、アマチュアにこだわり、なんと約半世紀に及ぶ演劇活動を続け、
そして私財を投じて自宅の裏に稽古場まで作ってしまったその情熱である。
15〜6坪ほどの稽古場は今稽古中の芝居の大道具、小道具などが隅に雑然と置いてあり、
役者の汗と涙が沁みこんでいるように黒ずんだ床が歴史を感じさせる。
「プロとアマの違いは生活基盤だけであり、舞台に上がれば気持ちにまったく違いはない
よ」
「演劇の魅力? 魅力ねぇ、たくさんあるけど、まず、舞台は一人じゃやれないでしょ。
だからみんなで作り上げる喜びだね。それから自分以外の人間になる変身の妙、そしてす
ぐお客様の反応を全身で感じる感動ってぇことかなあ」
「最近は有名な芝居だけをみて満足してしまうファッション化した見方がふえてきている。
大きなアクションを皮相的にみるのではなく、セリフに伴う心の動きもみてほしいね。つ
まり、役者も観客も一緒に育っていく必要があるというわけだ」
T氏のじんわりと芝居の重さを語る言葉には不思議な力が宿る。以後、公演のたびに招待
状をいただき、私はすっかりファンになって、芝居のめくるめく世界にひきずりこまれて
いったのだった。 |