シリーズ 世にも短い物語
近未来の世界
今日はたぶん150回目の私の誕生日だ。たぶんとつくのは、120回ぐらいまでは
正確に覚えていたが、だんだんどうでもよくなって、年齢も適当になってしまいお義
理で祝っているようなものなのだ。こんなに長生きするつもりは毛頭なかったのだが、
生かされてしまった、というのが真実である。
2度死にかけた。1度目は73歳のとき交通事故に合い、脳挫傷と足の骨折で意識不明
の重態であった。ところが万能細胞のお陰で私は半年後には完全に日常生活ができる
まで回復した。この万能細胞は21世紀に日本で始まり、人間の見果てぬ夢である不
老長寿の夢を叶えるものとして、各国とも競争のように研究がなされた結果、急速な
進歩をとげて万能細胞移植が実用化、普及したのだった。
2度目は82歳で万能細胞の副作用なのか肺がんが見つかったが、これも最新の治療
薬で治癒した。一昔前までは100歳まで生きられればめでたい、といわれていたの
が、今ではまわりに120歳、150歳がごろごろしている。痴呆やアルツハイマー
の治療薬も進歩したので頭はしっかりしていても、さすがに肉体は衰えている。その
ほとんどがロボットに介護されているのである。
私もときどきロボットの世話になるが、あの金属でできた生き物は嫌なものだ。まず
会話がおざなりで共感、反発がない。そして臨機応変の気配りができない。やはり機
械にはどこか人の心理や行動となじまないものがあるのだ。
そして最も失望しているのはこの歳まで生きると新鮮な感動というものがなくなるの
である。ある程度物事の予想がついてしまい、未知なるものへのワクワク感がないの
だ。この世の何たるかをすべて見つくしたような気がする。私はもうこの世に生きて
いるのは飽き飽きした。今私の最大の関心はあの世である。一体神の国、仏の国って
どんな国であろう。天国とか地獄とか、極楽浄土とはどんな世界であろう。もうこの
世には未練はない。なんと今、私の唯一の願いはあの世にいってみたい、なのである。 |