シリーズ 世にも短い物語
ああ、かわいい
電車の中でたまたま隣に赤ちゃんがいるとまったくのアカの他人なのに嬉しそうにあ
やしているオバちゃんを見かける。「まあ、かわいい。アババ」とか「バー」とか、
まるでそうせずにはいられないとばかりに全身が赤ちゃんに吸い寄せられている。
よーやるわ、世の中には根っからの子供好きっているもんだなあ、と感心して見てい
た。子供嫌いの私なんかとてもあんな風にはできない。きっとあれは話好きでオセッ
カイやきのオバちゃんの特性なのだとまだうら若い私は思っていた。だって、子供っ
て身勝手で、理不尽で、我儘のかたまりじゃん。癇癪起こしてキーッって泣く子や聞
き分けもなくいつまでもグスグスすねている子を見るとその子をド突きたくなるもん
ね。
そんな私ができちゃった婚をするハメになった。自己責任とはいえ、ああ、なんたる
運命のいたずらか。まだ22歳という若さで1児の母となってしまったのだ。
子育てはとにかく夢中だった。ミルクを飲ませ、オシメを取り替え、泣き止まなけれ
ば抱き、風邪を引けば病院にかけつけ、虐待することもなく猫可愛がりすることもな
く時は過ぎ、なんとか息子は3歳になってくれた。
いよいよ保育園に通わせることができる。保育園に預かってもらっている間はまった
くの私の自由時間だ。ああ、この日をなんと待ちわびたことか!
保育士が一定の場所まできてくれるので、その集合場所まで送り迎えすればよい。息
子は朝、先生に連れられて機嫌よく私とバイバイをした。ホッとする瞬間である。
さあ、子供から解放された貴重な時間、何をしようと考えるとワクワクした。嬉しく
て楽しい時間はあっというまに過ぎてすぐ迎えのときがくる。
集合場所で立っていると、保育園児の集団が賑やかにやってきた。息子は私を見つけ
ると嬉しそうに駆け寄ってくるなり、なんとこう言ったのだ。
「ママ、ボクのことここでずっと待っていてくれたの?」
おお、なんたる疑うことの知らない純真さ、一途さ、善良さ。それにひきかえ私は・
・・
思わずわが子を抱きしめて、私は心から子供ってかわいいと思ったのだった。 |