シリーズ 世にも短い物語
偽装まみれ
宴会のあとは二次会となってカラオケルームに流れた。本当は宴会どころではない深
刻な問題を私は抱えていたのだが、老舗同士の長年のつきあいを無視できない。
“飲みすぎたのは〜あなたのせいよ〜”
二人の男女がマイクをひしと握って声を張り上げている。私はこの歌を聞いて、あっ、
と思った。
(そうだ!今度の事件は他人のせいにしよう)
今、抱えている問題の切り抜け策として閃いたのだ。
私は老舗の料理屋として4代目を継いだ。料理を食べさせるだけでなく、そのブラン
ド名を利用してお持ち帰り料理も手がけ、販路をどんどん広げていった。やり手の手
腕家としての自信と、どうしたら儲けを少しでも殖やせて、成功者になるかといった
野心が常に頭にあった。それで、少しでも原価を下げ、効率よく品物を売りさばくた
め、高級材料を謳いながら安い材料を使う材料表示の偽装や賞味期限の改ざんなど、
偽装工作に走った。
いままで挫折を知らない人生だった。どうせお客なんぞの舌はあまり当てにならず、
このブランドで食べているのだとタカをくくっていた。
最近になって、その偽装工作が内部告発でバレたのだ。
そのとき、まず頭に浮かんだのはご先祖さまに申し訳ないだった。客のことはまった
く頭になかった。どうしたら老舗ののれんに傷がつかなくて済むか頭をめぐらせる日
々が続いていたのだ。
そして、今思いついた。自分は知らなかったことにしよう、と。
(材料納入業者のせい、それとつるんだ内部告発者を出したパートタイマーのせいに
しよう)
事件は他人のせいで起こされ、私はむしろその被害者である。そう決めた瞬間、それ
が事実のような気がした。
私は関知してない、部下のしたことである、と思うことができた。
そのとき私にカラオケのマイクが回ってきた。私は美空ひばりの「真実一路」を腹の
底から声をだして歌った。 |