〈シリーズ・銀座の街角で〉
おひとりさま
ル・テアトル銀座の芝居がはねて、いっせいに銀座4丁目方面に人の流れができた。
私もその流れに身を入れ足早に歩き始めたが、途中で気が変わった。小腹がすいた
ので軽食を取ろうと思い立った。私にしては珍しいことだ。喫茶店やファーストフ
ードならいいが、ちゃんとしたレストランに一人で入ることをワビシイとかミジメ
だと感じるたちなのだ。だから一人のときは大抵お腹が空いても家へ帰ってから食
べる。
ふらりと感じのいいレストランに入った。係員が「何人さまで?」と訊ねる。「ひ
とり」私は小さく答える。「ああ、おひとりさまで」という確認の言葉に、(ほら、
やっぱりおひとりさまを憐れんでいる…)とひがみ根性が頭をもたげる。係員がそ
んなこと思っていないのはテキパキ席に案内する身のこなしでわかるのだが・・・
オーダーをして手持ち無沙汰にぐるりと店内を見ると、どのテーブルも二人連れや
グループで賑やかだった。
ところが斜め前にやはり一人で食事をしている女性がいて偶然目が合った。40歳
前後、きちんとスーツを着ていかにもキャリアウーマンという感じであった。私は
(おお、ひとりぼっちの食事をするご同輩よ!)という感じで親近感を覚えたが、
相手はなんの感情もみせずに目をそらし、食事を続ける。物怖じもせず堂々と自分
の世界を確保していた。(さすが!)私は感嘆した。ならば私も今観てきた芝居の
余韻に浸りながら格好良く自分の世界を築こうとするがやはり落ち着かない。
“喧騒の中の孤独”と気取ったところで、所詮柄に合わない。おばさん根性丸出し
にぺちゃくちゃおしゃべりをしながら食べたいのだ。
(場末の町ではなく高級感あふれる銀座の街で、なぜ一人なんだろう?見知らぬ着
飾った人々の中でひとりいじけて座っている私。先程の女客のように、絵になるよ
うな雰囲気をもたなくちゃ)
たかが食事をするのに自分を叱咤激励している自分がいた。あれもこれもすべて自
意識過剰であることに気がついて思わず笑いがこみあげる。
(こんなことなら…)と店に入ったことを小さく後悔していたら料理がきた。そし
てチラっと一人で食事の女性に目をやると、すでに食事の終わった彼女はケータイ
を駆使してやっぱり世の中とつながっているのだった。 |