〈シリーズ・銀座の街角で〉
銀座のママ
約束の時間は5時である。
初冬の夕暮れは早い。銀座の中央通りはきらびやかなネオンに輝き、帰りのサラリ
ーマン、着飾った買い物客の往来で賑わっていた。
私は地図を片手に銀座8丁目の横丁のビルを探していた。目的のクラブはそのビル
の地下にあるはずだ。ようやく探し当てて急な階段を下りていく。重厚な木の扉の
前でひとつ深呼吸をしてから扉を開けた。中は意外と広くカウンター席が5〜6個
にゆったりとしたボックス席が5つあった。
中肉中背の美しい女性がすっと寄ってきた。セットしたばかりのきれいにアップに
結った髪、粋に着こなした黒っぽい着物。ああ、これが銀座のクラブのママなのだ
とおもわず見とれた。
その日ある雑誌に載せる記事の取材で私はやってきた。このママは私の学校の先輩
で快く取材に応じてくれたのだった。
「はじまして、ようこそ。お話が長くなるかもしれないので別にお席を用意してあ
りますので、ご案内するわ」
クラブの中を観察する間もなく、ママはしとやかな身のこなしで私を外へ連れ出す。
私はこんな機会はめったにないと未練がましく店内をもう一度見渡し、カウンター
席の横にエレクトーンが置いてあることやホステスの肩に腕を回した紳士やひらひ
らした華やかなドレスのホステスが金魚のように回遊しているのを目に留めた。
ママは道をはさんだ料理屋に私を案内するといきつけの店なのか慣れた様子でテキ
パキと料理を注文する。2歳しか歳が違わないのに、ああ、この貫禄! 私はすっ
かり圧倒されていた。
私にはクラブのママの3種の神器とは、美貌、社交性、気風の良さだと思っていた。
客をくつろがせ、夢を与え、非日常を演出する、そんな思い込みがあった。ところ
が話を伺っているうちにまったく異なることを教えられたのだった。
(来週につづく) |