〈シリーズ・銀座の街角で〉
お婆さん
昼の芝居がはねて東銀座から地下鉄日比谷線に乗る。どうやら同じような芝居帰り
の3人のお婆さんが並んで座った。私はその隣に座っていた。
するとお行儀よく座った3人のお婆さんがまもなく口ゲンカを始めたではないか。
私は思わず聞き耳を立てた。
「あんたたち、冷たいわね。ちょっと遅れただけなのにあたしを待っててくれない
なんて」
「あら、10分待ってたわよ。立って待ってるもんだから疲れるじゃないの。それぞ
れ切符もってんだから劇場に入れるし、と思って先へ行ったのよ」
「すぐよ。そのあと私が行ったのは。もう少し待っててくれてもいいのに…二人と
もまだなのかと思って私の方が待っちゃったじゃないの」
遅れたお婆さんは口をとんがらかす。
「常識でわかるじゃない。あんたが遅れたのっ!」
二人のおばあさんはなかなか手厳しい。
10分かあ、微妙な時間ではある、と私は思った。
「だってさ、あたしが一番遠いのよ。その辺のところを思いやって待つべきよ」
「遅れてきてそんなに威張ることないじゃないの」
ちょっと険悪な雰囲気。
「まあ、いいじゃないの。結局、お芝居はみれたんだし、こうして3人一緒に帰
れるんだから」
ひとりのお婆さんのとりなしでケンカはちょん。ホッとした。それからがまたおも
しろかった。
やっぱり、携帯電話をもつべきかしらねえ」
「あら、ウチのおじいさん持ってるけど、1か月に1〜2度しか使ってないわよ。
かかってもこない携帯をじっと見てるの。いじましいったらありゃしない」
3人が声を揃えて笑った。
ウフフ、おもしろいお婆さんたち…言いたいことをぽんぽん言って、後腐れなく仲
直りして、ずっとこうして付き合ってきたんだろうなと、ちょっとうらやましく思
った。 |