男を磨く
大分以前の話だが、どうも苦手なタウン誌の編集長がいた。とにかく気分屋なのである。
芸能ネタ、下ネタ大好きでへらへら笑っていたかと思うと、突然記事内容が悪いと怒り
出す。その落差が激しいので、私はフリーのライターだったのをいいことになるべく敬
遠していた。
それでも仕事とあれば引き受けて、私がノコノコ編集室へ顔をだすと、
「家庭内はうまくいってるかい?」
なんていう挨拶が編集長から飛んでくる。こういうとき型どおりの返事では気に入らな
い。そこで、
「えーとそれが、きょうだい仲はうまくいってるんですが、夫婦仲がどうも・・・」
なんて具体的な返事をすると、
「こりゃあ、いいや、ははは」
とご機嫌なのであった。
そのうち、何度か顔を出すうちにあることに気がついた。
誌面に一貫した個性があること(もちろん編集長のカラー)、ピリピリした雰囲気なの
に社員が楽しんでいるらしいこと、談論風発であることである。この編集長は結構社員
の気持ちをつかんでいて、人をノせるのがうまいのではないかと思った。
編集室には当時大ブレークしていた芸人、ビートたけしとタモリの比較考察を社員全員
が書き込みしたもの、最近のベストセラー本一覧表、居酒屋情報などがベタベタ貼られ
ていた。これを見ただけでも編集長がくだらないことにも真剣に取り組んでいる様子が
わかる。
あるとき、私が原稿を持っていくといきなり雷を落とされた。
「なんだ、このちょうちん記事は!こんな見え透いたクライアント持ち上げ表現では読
者に失礼だっ!いくら広告に頼る新聞でも常に読者の目線で書かなければダメなんだ」
編集長の目は節穴ではなかった。私はやられた!と思った。くだらないことにうつつを
ぬかしていると甘くみていたが、編集長は新聞の使命と誇りをしっかりと私に教えた。
さて、ようやくここで本題。男を磨くのは女のように一筋縄でいかない。昔から「遊び
も芸の肥やし」という言葉があるが、芸人のみならずこの気分屋編集長にも遊びがたく
さんの引き出しとなって仕事に輝きをもたらす。ピリピリした輝きでも人を魅了する力
を持ち、人はついてくるものだ。 |