こんにちは、私
引き出しを整理をしていたら分厚い名刺フォルダーが出てきた。手に取るとおびただ
しい名刺の数々。私は広告文のライターもしていたので、顧客先へ取材に行けば必ず
名刺交換をする。そのフォルダーはいわば私の仕事の歴史・過去帳のようなものだ。
パラパラとめくっていると名刺の人物が立ち上がるように思い出された。同時にその
とき仕事をしていた自分の心の動きや悩みや感情や考え方までが胸に迫ってくる。あ
ー、あのときはずいぶん頑張っていたんだっけ。そんな私に「こんにちは、私」と挨
拶したくなるほど懐かしい。
仕事となると結果を出さなければならないので、取材相手に過剰に期待していた。自
分に好都合に動いてくれれば好い印象になるし、思うとおりの協力が得られなければ
嫌な印象となった。
感じのいい人悪い人、好きな人嫌いな人、都合のいい人悪い人、相性のいい人悪い人、
尊敬できる人できない人、名刺から当時の私の感情が立ち上ってくるようだ。
若かったなあ、と思う。がむしゃらに緊張して仕事をしていて余裕もなく、相手とは
仕事上の出会いと割り切っていたような気がする。そして、その店に或いは商品に惚
れ込まなければいい広告文は書けない。だから都合のいいように思い込みでインタビ
ューをしていたかもしれない。つまり自分中心に人を評価していたのだ。今思うとせ
っかくの一期一会なのだからもっとその人の人間性までに触れて学ばせてもらうこと
がたくさんあったのに、もったいないことをしたものだと悔やまれる。でもそれが若
さとか未熟とかいうものだ。
皆それぞれの個性で存在し、それぞれの立場で輝いているのだ、なんていう見方がで
きるのは年齢を重ねなければできないのだ。
私は中年になるほど好きな人が増えたような気がする。若いときは許せなかった人で
もその人のすばらしい部分が見えるようになった。今、名刺を通してその人とのやり
とりや駆け引きのような付き合いがよみがえると、私に貴重な人生経験をさせてくれ
た人として感謝・感謝である。
こんな風に客観的に人を観ることのできるようになった私に再び「こんにちは、私」
と言おう。そして、これからも昔の私を思い出したときや新しい私に出会うたびに機
嫌よく「こんにちは、私」と挨拶しよう。 |