●新連載
クーニーズ 文はえんどうくにこ
世間の荒波を凛々しく乗り越えて来たベテランOLエンドーが
世間の矛盾、不正?を次々あばいて行きます!…多分。
今回は、おいおいこーいうふうに言われると私らヨワイナー、って話。
感謝
私が通勤で利用する地下鉄東西線は必ずといっていいほど、毎朝遅れる。
自然渋滞だの、電気故障だの、人身事故だの、何やかやで、10分〜15分遅れは当たり前、
20分遅れもざらではない。東京メトロにクレームつけてやろうかと思うくらい腹立たしい
限りである。
ならば一本早めの電車を利用すればといわれれば、ごもっともであるが、それも悔しい。
時々なら許せるが、定刻どおりの到着運転ができなくて当然という暗黙の状態になっている。
半ば慣れっこになってはいるが、毎朝の『この電車は当駅を○○分遅れで発車いたして降り
ます』
という一本調子の悪びれないアナウンスには、聞き飽きている。
ところがつい先日のことチョッとトーンの違う耳慣れないアナウンスにでくわした。
『ご利用ありがとうございます。当電車は本日乗客の皆様のご協力により、当駅を1分50
秒の遅れで発車することができました。ありがとうございました』
プッと吹き出しそうになったのは、私だけではない様子であった。正面に座っている男性な
ど首をキョロキョロさせ、スピーカーを探していたし、隣のサラリーマン二人組みも『ケッ、
まともじゃん』
声の感じから20代の男性、柔らかな控えめな語りでゆっくりとしたスピーチであった。
そのとき、私はその週の月曜日の朝礼の一場面を思い出した。
『○○クンより、勤続20周年表彰にあたってご挨拶をいただきます』
『このたびは、めでたく20年も、まさか、こんな自分が20年も勤められたとは信じられ
ないくらい、やはりひとえに皆様のおかげであります』拍手と爆笑の渦であったが、ほんわ
かとしたムードが心地よかった。この二人の男性は謙虚であり、心から素直に嬉しかったの
だろう。
久しぶりに心のこもった『ありがとう』を噛みしめながら、自分の降車駅間近にまたあのス
ピーチが。
『ありがとうございます。当電車はほぼ定刻に近い50秒遅れで到着の予定となります。乗
客の皆様のご協力に心から感謝いたします』
終点には多分、定刻で到着するであろう、そのときの、彼の感きわまったスピーチが聞けな
いのがちょっと残念な気分で私は電車から降りたのであった。